自分本位。

株とモノ批評、時々小話。なんでもことばに。

「あなたの仕事だけやっているわけじゃない」は正論だが絶対に言ってはいけない。

「こっちはあなたの仕事だけやっているわけじゃないんですよ!!」

営業時代、取引先だったある家族経営の小さな会社の中年社長に言われた言葉だ。もう今では昔の話だが今でも強く覚えている。その社長は威張ってばかりで自分の儲けのことだけ考えているような人だった。謙虚な姿勢が1ミリも感じられなかった。商品の品質管理は雑。注文が多少増えたら簡単に納期問題が発生。こちらがたくさん注文をつけたり、指示や客先の意向を伝えるとすぐに逆切れするか機嫌が悪くなる。「利益も少ないのにこんな仕事やってられませんよ」みたいなことを平気で言ってくる。やわらかく言うならば正直な人。悪く言うならまさに「クソジジイ」だ。今でもトラウマである。

私が鬱病寸前だった時、この会社が作る商品で重大な品質トラブルや納期問題を抱えていた。何度言ってもやる気が感じられずいう事を聞かないのでこちらから何度もしつこく電話でやりとりして彼にプレッシャーをかけ続けた。案の定、その社長はやはり逆ギレをした。「こっちはあなたの仕事だけやっているわけじゃないんですよ!!」という言葉を放って電話をガチャ切り。この言葉のおかげで私は仕事に対するやる気をほとんど失った。

「こっちはあなたの仕事だけやっているわけじゃない。」この言葉は究極の逃げ文句だと思う。これを言われてしまったら、何も言い返せなくなってしまうだろう。まさに「それを言っちゃったらおしまい」というお手上げ状態。これを分かりやすく言い換えると、「こちらは他にもお客さんはたくさんいるから、あなたの仕事ごときなくなったって痛くもかゆくもないんですよ。そこまで言うならこちらはもうやりませんよ」といった具合になる。

私はこの言葉を「思ってても構わないが、絶対に言っちゃいけない言葉」の一つと定義している。

確かにこれは正しいかもしれない。例えば飲食店で非常にクセの悪いクソクレーマーがいたとする。店員がクレーマーにキレて最終的にこのセリフを放ってもなんらおかしくはない。言いたくなる気持ちは確かにわかる。面倒がかからない良い客にだけ利用してもらえばいいだろう。(それが可能ならば)この言葉がずっと私の脳裏に焼き付いている。

私はこれを言われて以降、利用する店等で問題があったとき、不満に思って強く言いたくてもこの言葉のおかげで何も言えなくなってしまった。結局このように返される。あるいはそのように思われるのならばそれ以降こちらが良いサービスを受けられずに損をしてしまう。あるいは出禁になるという不安が過るからだ。
相手に非があって納得がいかないことでも結局これが付きまとってしまい、相手にはっきりと言う事が出来ない。それだけこの言葉はインパクトが強い。

面倒な客とは付き合わず、都合の良い客とだけ付き合う。これはビジネスにおける理想かもしれない。しかし都合の良い客もいつか面倒な客に転じてしまう可能性だってある。もしそれが続いたら最後はなにも残らなくなってしまう。商売はあくまで利益を追求するものでありボランティアではない。しかしこういう態度でふんぞりかえっていたらその組織は成長する見込みはないと思う。

ニーチェの言葉に「批判という風を受け入れよ」という言葉がある。キノコは風通しが悪い湿気がたまった場所に生えて増殖する。同じようにこれが人間の組織やグループでも起こる。批判という風が吹き込まないような閉鎖的な場所は腐敗してしまうということを意味する。この考えが当てはまると思う。

会社としてやっていく以上、利益は追求しつづけなければならないし、お金にならない無駄はビジネスは出来る限り省かなければならない。けれども売上の大小にかかわらず、客がいるから商売は成立する。これが全てのビジネスの根底にあり決して忘れてはいけない常識だ。もし「こっちはあなたの仕事だけやっているわけじゃない」と一度でも言葉にしてしまったら、もうその会社は価値がなくなってしまうとさえ思う。個人的には商売する資格なし。店をたたんだ方が良いレベルと考える。私自身フードデリバリーというちょっとした個人事業をやっているが、いくら客に腹が立ってもこの言葉は絶対に言ってはならないと思っている。

いくら年を取ってオッサン、ジジイになっても常に謙虚な姿勢は忘れてはならないと思う。謙虚な姿勢を忘れて威張って踏ん反りかえった態度でいると、いつか逆に「そうですか。それならあなたから買いませんから、さようなら」と言われる時がくるかもしれない。