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読書記録:「黒い家」サイレンの屍人みたいなおばさんが強すぎる不気味作品

以前の「変な家」に引き続きオーディブルで「黒い家」という作品を聴き終えた。
この「黒い家」は1997年に出版された有名な作品とのこと。これまで知らなかったが映画化もされていた。

黒い家

オーディブルは読み手の巧さと声質で作品の魅力が大きく変わる。本作品は女性声優が読み手で一人何役もこなしている。演技力・表現力が豊かで声質がミステリーやホラーに非常にマッチしている点において特に優れている。それもあり前回の「変な家」同様楽しんで読むことができた。遅読な私ですらわずか数日で聴き終えることができた。
このオーディブルの良さは映画感覚で作品を楽しめるだけでなく、遅読の人にとっては時間を短縮できるという点も大きなメリットだろう。

作品については読み手の表現力が卓越しているおかげで良くも悪くもリアルで起こっているかのごとく感情移入できる作品であった。この作品はホラー小説というくくりだが、怖いというよりも気持ち悪いという感情に近い。幽霊による怖さとは違い、異常な人間によるリアルな不快感である。実際に有り得そうな話なので気味が悪い。
※以下一部ネタバレあり

 

黒い家 - Wikipedia

ストーリーは保険会社社員である主人公が余計な正義感で保険金詐欺を働くサイコパス夫婦に過干渉したために恨まれ自分や周囲に起こった悲劇・災難の話。あるいはお金と人殺しに執着するサイレンの屍人風おばさんが包丁で無双するホラーともいえる。私の中では犯人の女がどうにもサイレンにでてくる屍人を連想してしまう。

ストレスが多少溜まってしまう

作品は非常に長く、テンポの悪さは感じてしまう。余計な描写が多いという印象。それに加え、主人公が定期的に常軌を逸した愚かな行動に走ってしまうことによって自ら事態を悪化させまくる展開が更にイライラ・ストレスを感じさせられてしまう。途中までは見えない危険が徐々に迫ってくるという気持ち悪さがあった。後半になるにつれて主人公に対して強いイライラが募る。携帯電話やスマートフォンが普及していない時代に書かれた小説のため、携帯・スマホがあったらともどかしく思う場面が何度もあった。
また、主犯格(ラスボス)のおばちゃんが屈強な男や元自衛隊員のおじさんをはじめとした数々の男たちをいとも簡単に殺害する点は奇跡体験アンビリバボーである。なぜ?どうやって?という強い疑問がどうしても浮かんでしまう。残念ながら詳しい殺害方法については書かれてはいない。不意打ちしたとは想像できるが、どうやって殺害したのかどうしても気になってしまう。怖さとは別のものではあるが、このように強い感情を読み手に抱かせるという点においては巧みな作品であると言えるだろう。

ラスボスである屍人風サイコおばさんについて

ラスボス(犯人)の屍人風おばさん=サイコパス夫婦の妻:幸子

家族の保険金がなかなか入らないことに苛立ち主人公へ「そんなに他人に飯を食わせたくないのか」といった趣旨の発言をしている。明らかに保険金目当てであるということが分かるセリフだ。保険金をアテにし、毎月多額の保険を掛ける代わりに普段の生活に困窮するという本末転倒。保険金がなければ生きられない=保険金詐欺を生業にしていると言っているようなものだ。何度も保険屋を往復して無駄なプレッシャーをかける時間があるのであれば働くべきだとツッコミたくなる。そういった考えにも至らないような、知能や心が乏しい人間が巨額の金を手にしたところで心の平穏は満たされないのは明白。子供を殺し、夫も用済みでいずれ殺してしまうことになる。もはやそうなると一人で金の使い道などないだろう。

この犯人は金に対する執着はもちろんあるが、同時に殺しが目的になっているようにも思える。子供の頃から殺生することによって自らの欲望を満たし続けてきたため、金よりもむしろ殺しが生き甲斐なのではないかと感じられる。本能によってためらいなく邪魔な者は殺す。理性がなく動物のような存在だ。

最後に:実際にもあり得る話

これを読んで考えさせられる点があった。本作品のように人殺しとは行かないまでも、客に恨まれて陰湿なイタズラや危害を加えられる可能性は無きにしも非ずという点だ。
特に接客業をしていると感じるだろう。つまらない些細なことで激怒する客、スタッフがしたミスを根に持ち続ける客、さまざまな人間と遭遇する。あるいはちょっとしたことでキレて執拗に追いかけてくるあおり運転。これも近いものを感じた。異常な人間と遭遇してしまったらできる限り関わらない。相手にしない。逃げる。というのがやはり現代において重要なのではと感じる。